2019.11.27

債務整理の受任通知とは?効力や書式・記載事項などを徹底解説

受任通知とは

受任通知とは

受任通知とは自己破産などの債務整理を開始した旨を伝える通知のことで、代理で債務整理を行う弁護士から各債権者や金融機関に宛てて送付されます。債務整理を行う場合、どのような手続方法でどのような内容なのかに関わらず、まず第一に受任通知を送付する必要があります。

受任通知という呼び方に馴染みがなくても、債権者側の呼び方である「介入通知」や「債務整理開始通知」といった名称でピンとくる方もいるでしょう。

受任通知を送付することで、貸金業者や債権回収会社からの催促を停止し、借り入れなど取引実績のデータ開示を要求することが法的な効力により可能になります。その他に、離婚調停や離婚中のトラブルで弁護士をつけた際に、相手側に弁護士を就けたことを通知するものとしても広く知られています。

受任通知の役割と目的

受任通知は、貸金業者や債権回収会社からの催促を停止し、借り入れなど取引実績のデータ開示を要求するという部分が主な目的です。

ただし、役割は「以後の債務者と債権者の直接的なやり取りを避けるため」の通知として機能します。債権者は受任通知を受け取らない限りは、相手方に弁護士がついたことを知り得ません。

そのため、受任通知を出して債務者に弁護士が就いたことを知らせることで、以後はすべて弁護士に対してのみ連絡をするように依頼することが可能です。不要なやり取りを遮断することで、取り立てを巡った別のトラブル発生を防ぐこともできます。

受任通知送付による効力はどこまで?

先述したように、受任通知を送付すると法的効力により取り立ての停止が可能になります。受任通知を送った後に貸金業者が不法行為を行うと、貸金業法24条の6の4、1項2号に則った重い罰則があるためです。

(監督上の処分)
第24条の6の4 内閣総理大臣又は都道府県知事は、その登録を受けた貸金業者が次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該貸金業者に対し登録を取り消し、又は一年以内の期間を定めて、その業務の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。
2 貸金業の業務に関し法令(第十二条、第十二条の五、第二十四条第三項及び第四項、第二十四条の二第三項及び第四項並びに第二十四条の三第三項及び第四項を除く。)又は法令に基づく内閣総理大臣若しくは都道府県知事の処分に違反したとき。貸金業法(昭和五十八年法律第三十二号)より

しかし、ここで催促が停止されるのはあくまでも貸金業者や債権回収会社(サービサー)、銀行などの金融機関だけで、親戚からお金を借りている場合など一般の債権者に対しては効力がありません。

銀行などの債権者であれば受任通知により取り立てを停止してくれるのが普通ですが、一般の債権者に関しては受任通知を受け取って停止してくれるケースばかりではないということは覚えておきましょう。

また、ここでの法的効力は「直接的な」取り立ての停止を意味しているため、裁判手続きにより借金返済の訴訟を起こされる可能性は大いにあるということです。ただし、受任通知を受け取ったあとはほとんどの場合そういった裁判手続きも停止してくれるので、債務整理が決定した段階でまずはしっかりと受任通知の準備を進めることが大切です。

受任通知の書式と記載事項

受任通知に記載する内容は、主に以下4点です。

  • 弁護士(代理人)が債務整理を受任・介入する旨と、その手続きを開始した事実
  • 債務整理開始につき、直接の取り立てや催促の停止を求める旨
  • 借り入れなど取引実績のデータ・書類等の開示を要求する旨
  • 債務の承認には該当しない旨

まず、1点目についてですが、弁護士などが債務整理を受任したことと、決まっていれば自己破産なのか、個人再生なのか、任意整理なのかの方針も記載します。そして、手続きが開始した旨をしっかりと通知します。

ここで重要なのは、通常の金融機関等であれば、債務者の氏名、生年月日、現住所などをしっかり記載することです。受任通知は、誰が債務者なのかを明確にした上で送付するのが通例のためです。

続いて2点目ですが、こちらは貸金業法やサービサー法によって定められている決まりのため、受任通知に記載があれば必ず停止しなくてはなりません。

3点目については、貸金業者やサービサーには取引履歴を開示する義務があるため、必ず記載しておく必要があります。ただし、クレジットカード会社や信販会社は、取引履歴を部分的に破棄していることがあるので、そういった場合すべてを開示してもらうことは出来ません。

最後に4点目ですが、「債務の承認」とは債務があることを認めることを言いますが、これは慎重に行う必要があります。債務があると認めることで消滅時効を中断させたり、時効援用が制限されたりすることのないように、受任通知ではあくまで「債務の承認には当たらない」旨を知らせておくことが重要です。

受任通知のデメリット

受任通知を送ることで、取り立てや催促から開放され平穏な生活を取り戻すことができます。また、以後の直接的なやり取りがなくなるため、不要なトラブルに怯える必要もなくなるでしょう。

しかし、受任通知には以下のようなデメリットもあります。

  • 債務整理により借金返済がストップするので、信用機関のブラックリストに登録される
  • 金融機関から口座を凍結されたりする可能性がある
  • 財産の譲渡は不可
  • 連帯保証人に請求が行く場合がある
  • 借金返済は独断・独自の裁量で出来ない
  • 止められるのは「取り立て・督促・催促」のみ。訴訟を起こされた場合は、受任通知では取りやめにするこは出来ない

上記のデメリットは、受任通知を送る以前に債務整理をすることで生じるデメリットでもありますが、法的拘束力が生じますので生活をする上での不自由さは必至でしょう。

また、ブラックリストに載ることでクレジットカードを返却しなくてはならなくなったりと、不便なことも多々あります。

受任通知が届くまでにすべきこと

債権者の詮索に対して不要な反応をしない

受任通知が債権者へ届くまでの間、具体的にすべきことの1つとして「債権者の詮索に対して不要な反応をしない」というものがあります。債権者は事前に方針や考えを聞いてくる場合がありますが、自己破産をすると分かれば給料の差し押さえをされたりする危険性もあります。

弁護士と契約をした時点で債権者とやり取りをする必要性はまったくないため、余計な情報を伝えてしまい後々の負担が増えてしまうという結果にならないためにも、一切の情報を共有しないようにしましょう。

預貯金を引き出しておく

カードローンでの借金などをしている場合、預金で債務を相殺されたり、受任通知を受け取った時点で口座が凍結されたりします。そのため、金融機関(銀行や信用金庫、郵便貯金など)に預けている現金はすべて引き出しておくようにした方が安心です。

些細なことも弁護士に逐一相談することが大切

弁護士と契約した受任通知が届く前後に関わらず、細かいことでも報告・相談するようにしましょう。小さなことだからと独断で判断し動いてしまうのは大変危険です。原則として、弁護士が知らない動きはないようにしておくのが良いです。

受任通知が届くまでの期間

受任通知は、弁護士と債務整理の委託契約を結んだ時点ですぐに弁護士から各債権者へ発送されます。ただし、債務整理の相談をしただけでは発送されませんので注意してください。

受任通知は通常FAXで送られるため、早ければ弁護士との契約を交わしたその日に受任通知も債権者のもとへ届きます。書面を作成し郵送で送る場合は、最短翌日になりますので、1日~3日程度かかることもあるでしょう。

また、弁護士の発送手続きが遅かったり、配送トラブルが起きたり、金融機関内の伝達ミスなどがあった場合は、1週間~2週間程度かかってしまう場合もあります。

受任通知を送るのが遅い場合の対処法

日々の催促や取り立てに頭を抱えている本人にとって、一刻も早くそれらから開放されたいと思うのは普通のことです。弁護士と契約を交わし受任通知を送ることで、銀行などの金融機関や貸金業者からの取り立てが止まるのであれば、すぐに受任通知を届けてほしいもの。

しかし、なんらかの理由で受任通知が送れててしまい、取り立てや督促が止まらないということもあり得ます。そういった場合には、電話などで債権者に「弁護士と債務整理手続きを進めている」という旨を伝えてください。

契約をしている弁護士の氏名や住所、連絡先を伝えた上で「私からは何も伝えられることはありません。質問に答えることも出来ませんので、今後は弁護士へ連絡をお願いします」と言います。

押しに負けて相談中の内容などを喋ってしまうと、後日訴訟を起こされたりした時に不利になることもあるので、ここでは一切口外しはしないことが重要です。

そして、弁護士と債務整理の相談をする際には、あらかじめ契約時に必要になる印鑑や身分証明書、借り入れ履歴のある金融機関の情報やクレジットカード、ローンカードなどを持参するようにしましょう。その場で債権者情報がわかれば、それだけ弁護士の手続きスピードも早くなります。

受任通知が届く前に訴訟を起こされたり、取り立てが家に来た場合の対処法

受任通知が届くまでの期間に訴訟を起こされた場合は、残念ながら受任通知によってそれを取り消したりすることは不可能です。受任通知は、あくまで「取り立て・督促」を停止する効力を持つものです。

ただし、受任通知が届く前に取り立てで業者が自宅を訪ね、帰ってほしいと伝えたのにも関わらず帰らない場合、刑法130条の不退去罪により法的効力で追い返すことが出来ます。

(住居侵入等)
第130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。刑法(明治四十年法律第四十五号)より

悪質な闇金業者などに違法な督促をされたという場合には、即座に弁護士に相談してください。金融庁に行政処分の上申をしてもらうことで、該当の金融業者に罰則を与えることが出来ます。そのためにも、いつ頃どの業者からどんな要求をされたかは確認しておく必要があります。

受任通知を放置・無視するとどうなる?

受任通知を送った側からしても、受任通知を受け取った側からしても、受任通知を放置・無視するとどうなるのかは気になるところです。

結論から言うと、受任通知を放置・無視したとしても特に何かが起こるわけではありません。放置・無視していたことで罰則やペナルティーが課されることもありませんので、安心してください。

ただし、受任通知には受け取った側に対しての質問とその回答期限が設けられている場合があります。この期限は伸ばすことも出来ますが、何も言わずにいると代理の弁護士から確認の電話連絡が来たりすることがあります。

また、直接の連絡を避けるように記載がされているものの、それは法的な効力を持たないため、直接本人に連絡した段階で法に触れることもありません。本人は不要な口外しをしないよう弁護士と約束をしているので、話し合いをすることは出来ませんが、連絡事態は問題にならないのです。

この通り、効力としては大きな拘束力を持たず、あくまで弁護士がついたことの「通知」としての役割が大きい受任通知ですが、放置・無視がいいというわけではありません。

弁護士との話し合いの提案や回答期限が設定されていた場合は、速やかに内容に応じた対応をするようにしましょう。そのためにも、受任通知の内容は手元に届いた時点でしっかりと読み込んでおくことが重要です。

まとめ

受任通知は、銀行や貸金業者などの金融期間からの督促・取り立てを停止させるために、弁護士に送ってもらうものです。これにより、債権者とのやり取りは以降弁護士を介して行われることとなり、借金の取り立てや督促から開放されます。

債権者は、受任通知(債権者にとっては介入通知)を受け取ったあとで取り立てを行うことは出来ません。これは法的な決まりで不法行為にあたり、金融庁から処分を受けてしまうためです。

受任通知を一刻も早く送り、取り立てから開放されたいものの、何らかの事情で受任通知を届けるのが遅くなる場合もあります。そのような場合にも慌てずに、弁護士に一任している旨を債権者に伝えるようにしましょう。

ここで重要なのは、債権者に余計な情報を与えないということです。債権者が執拗に詮索してきたり、取立てを止めない場合には即座に弁護士に相談するようにしましょう。

債務整理をすることでデメリットは多々ありますが、国で定められた正当な手法のため、それを有効に使わない手はありません。受任通知の送付も含め、わからないことが一つでもあれば、自己破産や自己再生の専門家や弁護士に相談し、1つ1つ解決していくことが何よりも大切です。